メリット、デメリットの検証
個人事業と法人の違いについて、具体的にどのようなものがあるのか比較してみましょう。
表にまとめると以下のようになります。
個人事業 | 法人(株式会社) | |
---|---|---|
設立手続き | 不要 | 法律に定める手続き |
資本金 | 不要 | 株式会社1円以上 |
社会的信用 | 得にくい | 得やすい |
事業失敗時の責任 | 全て個人負担(無限責任) | 出資額の範囲で責任を負う(有限責任) |
事業の内容 | 制限なし | 定款で規定した事業のみ |
社会保険への加入 | 従業員のみ | 加入できる(必須) |
税金 | 所得税(累進課税10%~37%) | 法人税(22%または30%) |
事業承継 | “親から子”以外は難しい | しやすい |
社会的な信用
- 取引の安全性の確保できる
会社の情報は法務局に行けば、誰でも自由にその会社の内容を見ることができますので、その点で個人と比較して取引の安全性が確保されているといえます。 - 人材の確保がしやすい
また、会社は各種保険加入が義務づけられていることで、優秀な人材を集めやすいことや、厚生年金や社会保険に事業主本人も加入できることなども個人事業と会社との違いになります。 - 事業承継しやすい
個人事業のケースで事業主が亡くなった場合には、それまでの信用や財産を継承することが難しく家族が事業を継承したとしても新たに信用を築いていかなくてはなりません。許可の必要な商売などは取り直しも必要になる場合もあります。
会社の場合は会社自体が亡くなる訳ではない為、そのような心配がありません。また持分を移転することによって事業を譲渡することができる為、後継者にも事業を承継しやすくなります。
ですから事業の承継という点では、法人が明らかに有利です。一代で終わらせるならともかく、末永く事業を続けていくつもりであれば、法人化は欠かせないものです。 - 権利義務の主体となる事ができる
法人化することによって、個人とは切り離された法人格が認められ、事業に関わるあらゆる権利義務の主体となることができます。
そのため、個人事業とは違い、法人名義で銀行口座を開設したり、法人として銀行からお金を借りることも可能になります。
例えば、事務所や店舗を借りるときを考えてみると、個人事業者が借りる場合と、法人が借りる場合とでは大きな違いがあります。
個人事業者が事務所や店舗を借りる場合は、事業主個人が「建物賃貸借契約書」の契約者として契約します。そして、保証人として資力のある第三者保証人を要求されるのが通常です。保証人を立てるとなると、身内ならともかく、友人知人には頼みにくいものです。頼まれた方も困ってしまいますよね。
一方、法人が借りる場合には、法人の代表者が会社を代表して建物賃貸借契約書の契約者として契約します。そして、その代表者が代表者個人として保証人になるケースがほとんどです。つまり、法人の場合には、第三者の保証人なしに事務所や店舗、建物を借りることができるのです。 - 金融機関や投資家への判断材料が提供できる
法人は個人事業と違い、厳格な会計処理が求められています。金融機関や投資家は、目に見える会計資料(財務諸表)をもとにその法人を判断しますので、融資や出資も個人事業よりは受けやすくなるといえます。もちろん中身が重要なのは言うまでもありませんが…
責任面
個人事業の場合は、業績が悪化した場合には、その個人事業主のすべての財産が債権回収の対象になります。
要するに、事業を失敗した場合にはすべての財産を失うことになります。
しかし、株式会社の場合出資者は自分の出資した金額の範囲でしか責任をとる必要がありません。もし事業が失敗して借金だらけになったとしても、出資分(株式等)を放棄すればそれで終わりです。たとえそれが借金返済に足りなかったとしても、個人には請求されないのです。
税法上の違い
個人事業の場合は、超累進課税率が適用されますので売上が上がれば上がるほど税金は高くなります。
所得税、住民税を合わせると最高税率は50パーセントにもなりますが、会社の場合には原則30パーセントの均一課税のため、事業税を含めても約41パーセントで済むことになります。
したがって利益が高くなるほど会社のほうが税率面で有利です。
節税対策しやすい
- 社長も給与所得者となるため給与所得控除の対象として経費に出来る
個人事業主が法人成りして社長になった場合、会社から給与をもらうことで、その分を利益から差し引く事ができ、利益を減らせます。 その代わり社長の給与には所得税、住民税等が掛かります。個人事業主は、事業の所得として所得税(超過累進課税)が掛かります。 - 消費税の納付が免除される
会社設立時の資本金が1,000万円未満の場合、会社設立後2期間(第1期及び第2期)は、免税事業者となり消費税の納付が免除される特典が受けられます。 - 損失を9年間繰越すことができる
個人事業主で青色申告ている場合は、損失を3年間繰越せますが、会社で青色申告をしている場合は、損失を9年間繰越すことができます。 - 会社で契約した生命保険料は、その種類と契約内容により全額経費とする事ができる。
会社が契約者及び支払者となっている生命保険は、 保険の種類と契約内容によっては保険料が全額経費とする事ができます。個人事業主の場合は、保険料控除できるのは、生命保険料、介護医療保険料と個人年金保険料を合わせて最大12万円までです。 - 退職金を損金とすることができる
個人事業主の場合、自分で自分に退職金として支払う場合、必要経費には計上できません。また、個人事業主が家族従業員に退職金を支払ったとしても、同様に必要経費には計上できませんので「小規模企業共済」制度などを使う必要があります。
その点会社だと役員や家族従業員に対し、退職金の支払いが可能で、それが適正額であれば損金に出来ます。
事業用資産と個人財産の区分けができる
個人事業では、たとえ事業用としている資産でも、それらは個人所有の財産とみなされ、事業主が生活で使っている個人の財産と明確に区分することは法律上も困難です。
このように事業用資産と個人財産を明確に区分できない状況は、事業を継続するにあたって、以下などの色々な弊害を生みます。
- 事業主が配偶者と離婚した場合、
事業用の資産も配偶者への財産分与の対象になります。ですから、離婚すると事業の運営に支障が生じる可能性があります。 - 事業主が死亡したとき
事業主が死亡すると相続が発生します。相続が発生すると、事業主名義の銀行口座は一時的に凍結されてしまいます。口座が凍結されれば、自動引き落とし等を利用していた場合、支払が滞ります。個人事業は、あくまでもその人個人名義の口座通帳しかもてませんから、死亡すれば、即、事業に支障をきたす場合が少なくありません。
その点、法人化すれば、代表者が死亡しても、法人の資産が相続の対象になることはありません。また、口座が凍結されることもありません。代表者の変更も円滑に行うことができます。
また事業で使用している預金や不動産も相続財産となり、相続人に分割されます。その結果、事業用の資産が相続税の納税資産として消えてしまう可能性もあります。その点、事前に法人化しておけば、預金も法人名義ですし、事業用の不動産も個人名義から法人名義に変更して登記しておけば、その不動産は法人の資産となり、個人の財産と明確に区分でき安心です。
その点法人化しておけば、法人の代表者が離婚したり、死亡した場合でも、配偶者や相続人は法人の資産を持ち出したり、処分することはできなくなります。法人の資産は法的に守られる事になります。
個人事業から会社にするデメリット
- 会社設立時に費用がかかります。
個人事業は税務署に届を出すだけで始められますが、株式会社を設立する場合、登記費用として最低約25万円ほどかかります。また専門家に依頼すれば、その費用として6~10万円かかります。合同会社だと、登記費用として最低約6万円ほどかかります。また専門家に依頼すれば、その費用として6~10万円かかります。 - 決算が大変になります。
会社の場合、税務申告書も所得税の確定申告に比べ複雑になります。その為税理士に依頼するケースが殆どなのでその費用がかかります。 - 赤字でも納めなければいけない税金があります。
会社の場合たとえ赤字でも、法人住民税の均等割で最低7万円の税金を納めなければなりません。 - 交際費の経費算入額が異なります。
個人事業主は、交際費について上限はありませんでしたが、資本金1億円以下の法人の場合、交際費の定額控除額は800万円です。 - 社会保険へ加入しなければなりません。
健康保険と厚生年金保険への加入が義務づけられます。その際、保険料を会社は半分負担しなければならなく、その保険料は国民健康保険と国民年金に比べて高額になります。